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福島地方裁判所 昭和45年(ワ)246号 判決

原告 川崎新興株式会社

被告 金純煥

主文

一  本件訴のうち、別紙第二目録1ないし4記載の資産に関する部分を却下する。

二  別紙第一目録1・2記載建物の賃借権及び同第二目録5ないし8記載の資産を競売に付し、売得金の中より競売の費用を控除した残金を、原告に四分の三・被告に四分の一の割合で分割交付することを命ずる。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告・その余を被告の各負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  別紙第一目録1・2記載建物の賃借権及び同第二目録1ないし8記載の資産について、原告の持分四分の三・被告の持分四分の一の割合に応じて、それぞれ分割する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二原告の主張

(請求原因)

一1  原告は、昭和三三年一一月頃、被告と次のような「福島ゲームセンター(遊技場)共同事業契約」を締結した。

(一) 事業資金は、金四〇〇万円とし、原告が金三〇〇万円、被告が金一〇〇万円をそれぞれ出資する。

(二) 須田太郎所有の別紙第一目録1・2記載の建物(以下「本件1・2の建物」という。)を賃借し、福島ゲームセンターの名称でパチンコ等の遊技場を経営し、右建物の賃借権は、原・被告の出資の割合による共有とする。

(三) 営業損益の分配は、原告が三分の二、被告が三分の一の割合とする。

(四) 右遊技場の営業一切は、原告が担当する。

2  右契約は、原・被告が共同で遊技場を経営することを目的とした民法上の組合契約である。

3  本件1の建物は、右契約締結前に被告名義で、同2の建物は、その後岩本重康(原告会社の取締役)名義で、それぞれ須田太郎から賃借している。

二  被告は、昭和四三年一月二五日原告に対し、口頭で、已むを得ない事由による右組合解散請求の意思表示をしたので、右組合は、同日解散となつた。

三  そこで、原・被告は、右組合の清算手続を進め、同手続終了後に、本件1・2の建物の賃借権及び別紙第二目録記載の資産(以下「本件資産」という。)が残余財産として残つた。

四  右残余財産の分割について、原・被告間に協議が成立しない。

五  よつて、原告は、右残余財産につき、前記出資の割合による分割を求める。

(被告の主張に対する答弁)

六 被告主張五は、争う。

1  本件1・2の建物の賃借人は、名義上被告と岩本重康になつているが、実質は組合であり、このことは、貸主たる須田太郎も了承しているから、右各賃借権は、組合財産に属し、解散による清算終了後は残余財産となるものである。

2  共有にかかる建物賃借権については、民法第二五八条によつて、現物分割または競売による分割が可能であり、価額賠償による分割も認められると解すべきである。

七 同主張六について、被告名義で本件パチンコ営業の許可を受けていることは認め、その余の事実を否認する。

八 同主張七について、被告主張の更正決定を受け、被告名義でこれを支払つたことは認めるが、その余の事実を否認する。

第三被告の主張

(請求原因に対する答弁)

一  原告主張一の事実について、1・2は否認し、3を認める。

被告は、原告会社の重役である岩本重康外四名の個人と、被告を営業者とする匿名組合契約を結んだものであり、原告会社とは契約をしていない。

二  同主張二の事実について、かりに原告主張の組合契約が認められるならば、認める。

三  同主張三の事実について、本件各建物の賃借権及び本件資産中5の敷金返還請求権が残余財産に帰属することを否認し、その余は認める。

四  同主張四の事実は、認める。

(仮定主張)

五 仮に、原告主張の組合契約が締結されたとしても、本件各建物賃借権は、次の理由により分割の対象となりえない。

1  本件各建物賃借権の出資について、貸主たる須田太郎の承諾はなく、原・被告間で内部的に持分をとり決めたにすぎないから、組合が解散した以上、右各賃借権は、対外的にはもとより対内的にも、賃借名義人各自に帰属する状態となつたものであり、残余財産になる余地はない。

2  かりに、そうでないとしても、共有にかかる本件各建物賃借権を現物分割することはできないし、賃借権には譲渡性がない以上競売による方法をとることもできないから、分割は不能というべきである。

六 被告の出資額は、金一〇〇万円にとどまるものではない。

すなわち、被告が出資した本件1の建物賃借権の評価は金二〇〇万円を下らず、更に、被告は、右賃借建物の内外改装及びその資材一切の費用として金一七三万円、本件2の賃借建物について映画館舞台撤去の損料として金三〇万円を支出したので、その総額は金四〇三万円となるが、そのほかにも、被告は、その名義で本件パチンコ営業の許可を取得しているから、その価額をも算入すると、被告の出資額は、更に増大するのである。

七 原告は、昭和三七年から同三九年までの三ケ年に亘り、被告に無断で、福島ゲームセンターの帳簿に収入として記載されていない相当額の金員を持出し、そのために、右三ケ年に亘る税金の寡少申告として合計金一〇〇〇万円に達する更正決定を受け、被告名義でこれを支払つた。税金負担の割合は損益分配の割合によるから、右金一〇〇〇万円の三分の一に当る金三三三万三〇〇〇円は被告の負担すべきものではなく、実際の利得者である原告が負担すべきであり、これによつて、同額の損失を被つた被告は、原告に対して右不当利得金の返還請求権を有する。本件残余財産の分割にあたつては、右の事情を考慮すべきである。

第四証拠〈省略〉

理由

(本案前の判断)

一  本件訴は、組合の解散による清算終了後の残余財産につき、民法第二五八条を類推してその分割を請求するものである。

ところで、組合が解散し清算手続が終了すれば、共同目的のため組合財産に存した制限は、解消されるので、残余財産については、通常の共有関係に還元されるわけである。したがつて、残余財産中に可分給付を目的とする債権があるときは、民法第四二七条によつて、各組合員の出資額の割合に応じ当然に分割されるのであり、その結果、これに対する共有物分割の訴は、その対象を欠くこととなるから、不適法な訴として許されないものといわなければならない。

二  これを本件について検討するに、まず、本件資産中1の現金は、数額的に可分であるから、前記説示に従い当然に分割されて、原・被告各自に帰属するものである。

同資産中2・3の各預金については、形式的に各個人名義のものとなつているが、預金者の認定は、実質関係を考慮してなしうるところ、原告の主張によれば、組合が実質的な預金者である。そして、清算手続終了後の預金払戻請求権は、可分であるから、前記説示に従い当然に分割されて、原・被告各自の個人財産となる(当座勘定取引契約については、組合の解散による清算結了によつて終了し(民法第六五三条)、これを銀行が知るか通知を受けることによつて、銀行に対抗し得る(民法第六五五条)ものと解する。)。

同資産中4の出資金についても、前同様その出資者は組合である。ところで、本件組合は、その解散によつて福島地区遊技業協同組合を脱退し(中小企業等協同組合法第一九条第一項第二号)、同協同組合に対し出資額を限度として持分払戻請求権を取得する(同法第二〇条、福島地区遊技業協同組合定款第一四条)のであるが、右請求権は、清算終了時において、可分債権として前同様当然に分割され、原・被告各自に帰属するものと解すべきである。

同資産中5の敷金返還請求権および本件各建物の賃借権が分割の対象たる残余財産に含まれることは、後に五で述べるとおりであるから、これと異なる被告の主張は、採用できない。

以上のとおりであるから、本件訴のうち本件1ないし4の資産に関する部分は、不適法として却下を免れない。

(本案の判断)

三 成立に争いのない甲第三号証、証人岩本重康の証言(第一回)により真正に成立したと認める甲第一号証、証人岩本重康の証言(第一・二回)及び被告本人尋問の結果(第一・二回の各一部)によれば、原・被告は、共同で遊技場を経営するために、まず、被告名義で福島県公安委員会からパチンコ営業の許可を受け(同許可の点は、争いがない。)、次いで、原告主張一1の「福島ゲームセンター(遊技場)共同事業契約」を締結したことが認められ、被告本人尋問の結果(第一・二回)中、右認定に反する部分は採用し難く、ほかに、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、原・被告間の右契約は、遊技場共同経営の業務執行者を原告と定めた民法上の組合契約であり、被告主張のような匿名組合契約ではないというべきである。

四 原告主張一3(本件各建物の賃貸借契約)・二(本件組合の解散)の事実、同主張三(清算手続終了による残余財産の存在)のうち、本件各建物の賃借権と本件資産中5の敷金返還請求権とが残余財産に含まれることを除いた事実及び同主張四(分割の協議不成立)の事実については、当事者間に争いがない。

五 ところで、右賃借権及び敷金返還請求権は、本件分割の対象たる残余財産に含まれるものと解する。その理由は、次のとおりである。

1  前叙のように、賃借名義人は、本件1の建物については被告、同2の建物については岩本重康であるが、前掲甲第一号証・第三号証、被告本人尋問の結果(第一回)によつて真正に成立したと認める乙第二号証、同結果(第二回)によつて真正に成立したと認める乙第七号証、証人岩本重康の証言(第一・二回)及び被告本人尋問の結果(第一・二回)によれば、右賃借権は、いずれも組合に出資されたもので、組合財産として原・被告間においては、原告の持分四分の三・被告の持分四分の一の割合による共有であることが、原・被告を当事者とする確定判決(仙台高等裁判所昭和四三年(ネ)第一六九号営業権確認等請求控訴事件)の主文において確認されており、右出資は、賃貸人たる須田太郎の承諾をえてなされたものであり、賃料は、組合の負担において、賃借人各自の単独名義で支払われていることが認められ、被告本人尋問の結果(第一回)中、右認定に反する部分は採用できない。

右認定の事実によれば、本件各建物の賃借権が、組合財産に属することは明らかというべく、原・被告の内部関係では、出資額の割合を持分とする共有であるが、賃貸人に対する関係では、賃借名義人各自に帰属し、それが出資によつて転貸関係を生じたものとみることができよう。敷金に関する法律関係の帰属についても、それが賃貸借契約に付従するものである以上右と同様に考えてよい。

2  右述の意味で組合財産たる本件各建物の賃借権及び敷金返還請求権については、組合の解散による清算終了時において、通常の共有関係となることは前叙のとおりである。そして、(準)共有にかかる賃借権が可分債権でないことは、いうまでもない。ところで、本件敷金返還請求権は、賃貸借終了後建物明渡のときにおいて、それまでに賃貸借契約より生ずる賃貸人の被担保債権を控除し、なお残額があることを条件として、その残額につき具体的に発生する条件付権利であると解されるが、本件において右条件が成就したことの主張・立証はないから、本件賃借権に付従する条件付権利として、これまた可分債権ではないというべきである。

すなわち、右賃借権及び敷金返還請求権は、原・被告の内部関係において(準)共有に属する残余財産として、本件分割の対象になるものである。

六 被告主張六について、まず、被告名義で本件パチンコ営業の許可を受けていることは当事者間に争いがなく、前記三で認定の事実によれば、右許可にかかる「営業権」が出資されていることは明らかである。しかしながら、本件組合契約においては、右出資を前提として、出資額の割合を原告が四分の三・被告が四分の一と約定したものと解されるから、右営業権の出資によつて、右約定にかかる出資額の割合に消長をきたすものではない。また、本件1の建物賃借権の出資についても、それが当初から予定されたものである以上、右と同様である。次に、前掲乙第七号証および被告本人尋問の結果(第二回)によれば、被告は、昭和四二年三月一五日賃貸人たる須田太郎に対して、本件2の賃借建物をバツテイング遊技場に改装するため、映画館の舞台を撤去したことによる損料として金二〇万円を支払つたことが認められるけれども、その支出の時期および右出資額の割合に関する約定をも考慮するならば、右支出の事実からそれが組合に対する出資であるとは認め難いというべく、他にこれを肯認すべき証拠もない(右支出は、単なる立替払ということになる。)。被告が主張するその他の支出については、本件遊技場を経営するために、当初から予定された出資とみられるのみならず、被告主張の支出額であることを認めるに足る的確な証拠もない(被告本人の供述のみでは、不充分である。)。

要するに、被告の主張六は、採用できないから、本件組合における出資額の割合は、原告が四分の三・被告が四分の一の割合であることに変りはない。

七 被告主張七について、被告主張のごとき更正決定があり、その増差税額を被告名義で支払つたことは、当事者間に争いないが、前掲甲第三号証、証人岩本重康の証言(第一回)及び被告本人尋問の結果(第一回)によれば、当時組合たる福島ゲームセンターの所得については、被告名義で営業許可を受けていた関係上、被告名義で申告納税していたものであり、右追徴にかかる税金についても、被告名義ではあるが、右ゲームセンターの収入から支払つた事実が認められるので、被告の主張は、その前提を欠くといわなければならない。のみならず、仮に、被告がその主張の不当利得返還債権を原告に対し有していたとしても、そのことだけの故に、本訴請求が影響を受けるいわれはないから、被告の右主張は、それ自体失当である。以上のいずれによるにせよ、被告の主張七もまた、採用できない。

八 進んで、本件各建物の賃借権及び本件5ないし8の資産について、その分割方法を検討する。

1  本件各建物の賃借権について、被告は、右賃借権の分割は不能である旨主張する。確かに、(準)共有にかかる賃借権の分割は、その実質において各持分の交換による移転にほかならないから、分割には賃貸人の承諾が必要であるといわなければならない。

しかしながら、右承諾は、賃貸人に対する対抗要件であるにとどまり、その承諾を欠いたとしても、当事者間の内部関係では有効な分割なのであるから、賃借権の分割(つまり、その前提となる賃借権の譲渡性)が法律的に不能であるとはいえない。このことは、借地上建物の競落によつて敷地賃借権も(その賃貸人の承諾がない場合でも)競落人に移転すると解され、これを前提として、借地法第九条ノ三の規定が設けられたことに徴しても、明らかといえよう。また、賃借権の現物分割が、事の性質上当然に不能であるとはいえないし、現物分割ができない場合には、右に述べたところから競売による分割が可能であることについては、いうまでもない。それ故に、被告の右主張は採用できない。

そこで、現物分割の是非についてみるに、本件1・2の建物賃借権につき、持分の割合によつて各建物ごとに、現実に区画して分割することが可能であると認めるに足りる証拠はない。ただ、成立に争いのない甲第八号証および検証の結果によれば、右各建物は、一筆の土地上に隣接し公道に面して建築されており、1の建物はパチンコ店、2の建物はバツテイングセンターとして使用されてきたこと、右両建物の間は、幅員四・三メートルの通路となつているが、そこに両建物にかけてプラスチツク製の仮屋根をふき、公道に面した入口は車庫として、その奥は浴室・便所等の設備をして利用されていることが認められるので、右両建物は、外形上一団の建物とみられる余地もあり、したがつて、これを一括して分割の対象とすることも考えられないではない。しかし、前掲甲第八号証によれば、右各建物の賃借権は、1の建物につき金四二四万円・2の建物につき金二四九万円と評価されているのであつて、その割合は、原・被告間の持分の割合とは遙かに相違しているところ、裁判上の分割において価額賠償の方法によることは許されないと解すべきであるから、持分の割合に応じた公平な分割をはかるためには、右の一括した現物分割の方法によることも不可能というのほかはない。

したがつて、本件各賃借権については、これを競売に付し、売得金の中より競売の費用を控除した残金を、原告四分の三・被告四分の一の割合で分割するのが相当である。

2  本件敷金返還請求権について、それが未発生・未確定の条件付権利として、本件各賃借権に付従するものであることは、前叙のとおりである。したがつて、これについても、1の場合と同様現物分割に代えて競売の方法による分割を認めることとする。

3  本件6ないし8の資産については、そのそれぞれにつき現物分割することは、事実中不能といわざるをえない。また、社会通念上これらを一団の営業用資産として一体視し、一括して分割の対象とすることを考えるとしても、営業用資産としての效用を維持するためには、部門別(パチンコ店とバツテイングセンター)に分類して分割する必要があるし(しかし、右資産中には、いずれにも分類できないものがある。)、また、持分の割合に応じた公平な分割をも図らなければならない。このような見地に立つと、価額賠償の方法によらない限り、右の一括現物分割も、不可能と考えられるのである。よつて、右各資産についても、1の場合と同様競売の方法による分割を認めるのが相当というべきである。

(結論)

九 以上の次第であるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条・第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤邦夫)

(別紙)第一目録

1 所在 福島市早稲町二八番地

家屋番号 第一五四番の二

種類 店舗

構造 木造瓦葺スレート葺二階建

床面積 一階 三三九・六六平方メートル(一〇二坪七合五勺)

二階 一二一・四八平方メートル(三六坪七合五勺)

2 所在 福島市早稲町二八番地の二

家屋番号 第一五四番の三

種類 映画館

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 一九八・一一平方メートル(五九坪九合三勺)

二階 三七・五二平方メートル(一一坪三合五勺)

(別紙)第二目録〈省略〉

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